ヒトの疾患と動物モデル

現代の医科学研究の有効性はいかに

ヒューメイン・ソサイエティー・インターナショナル


研究施設での動物実験に使われる動物の最も大きな割合を占めるのが生命科学の基礎研究及び応用研究であり、世界中の動物実験が年間115万匹の動物を犠牲にしていると推定されるうち、その3/4を占めている。疾患の病態生理を研究するためであれ、医薬品や治療法の開発や有効性の研究をするためであれ、これらの分野では動物でヒトの疾患のモデルを構築しようという試みが多く、動物の苦痛という観点からは、これらの試みは最も重篤な動物実験と位置づけられている。マウス、ラット、ウサギ、犬やサルなどの動物において人工的に症状を作り出してヒトの疾患を再現しようとする方法には、重大な科学的な限界があり、動物にみられる症状や試される治療方法に対する反応は、人間の患者のものと異なる場合が多い。

 

喘息の研究を、動物を用いない方法へ転換する—”21世紀の科学に向けて

Drug Discovery Today, Volume 16, pages 914-27, November 2011
Gemma L Buckland

喘息の発生率は増加しており、研究を求める声も増えているが、喘息は未だに完全に理解されていない疾患の一つである。喘息に関する研究においては多くの動物が使用されてきた。しかし、インビトロ(試験管内)やコンピューターモデルが着実に進歩しており、代替(Replacement)、削減(Reduction)、改善(Refinement)3Rの原則をよりしっかりと取り入れる必要性が生じている中、喘息に関する研究のパラダイムを再評価しなければならない時期にきていると考える。動物を用いない研究技術は、コミットメントと統合が必要な段階にきている。 続きはこちらから(英語の原文へ) »
 

 

動物の疾患モデルはヒトに関する研究の信頼できる知見につながるか

PLoS Medicine, Volume 7, page 514, March 2010
H Bart van der Worp, David W Howells, Emily S Sena, et al.

動物実験は、疾患のメカニズムの理解に大きく貢献してきた。しかし、臨床試験における治療の戦略の効果の予測となると、その価値は未だに議論されている。実際、動物を用いた研究によりヒトにおいてどのような反応があるかについて確実に予測できないため、臨床試験が必要不可欠なわけである。7つの影響力の高い主要な学術誌に掲載された動物を用いた研究をレビュー(評価)したところ、人間に対する無作為化試験の段階まで進んだ研究の1/3、そして治療が実際に実施されたものの1/10で、その後患者に対する使用が承認されたと報告されている。しかし、レビューされたこれらの研究は影響力が高いものばかりであり(平均引用数が889)、これよりも引用数の少ない動物を用いた研究は、臨床現場で応用できる可能性はさらに低いと考える。 続きはこちらから(英文の原文へ) »
 

 

実験的アレルギー性脳脊髄炎: 誤解を招きかねない多発性硬化症のモデル

Annals of Neurology, Volume 58, page 939-45, 2005
Subramaniam Sriram and Israel Steiner

何年にも及ぶ徹底した研究にもかかわらず、多発性硬化症(MS)に対する理解は進んでおらず、その治療方法も十分ではない。多発性硬化症については、免疫介在性の疾患であり、実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)が、病因を明らかにし、治療法を確立するためには適切なモデルであるという仮説が主流である。本レビューでは、実験的アレルギー性脳脊髄炎の、多発性硬化症の動物モデルとしての適切性と有効性が妥当であるかについて批評的に検討し、信頼性のある科学的根拠が不十分であることを明らかにする。実験的アレルギー性脳脊髄炎は、多発性硬化症に相当するものというよりも、急性の中枢神経系の炎症のモデルであると考える。特に実験的アレルギー性脳脊髄炎モデルが治療方法の特定に使われている場合において、このモデルの使用を再検討すべきであることを提言案する。この方向性は、実験的アレルギー性脳脊髄炎のしがらみを受けず多発性硬化症を検証することにもつながり、多発性硬化症がどのように捉えられているかではなく、その本質を解明することにもつながる。 続きはこちらから(英文の原文へ)  »
 

 

鬱病のマウスを求めて: 遺伝子組み換えマウスにおける鬱病関連の行動の研究のためのモデルの有用性

Molecular Psychiatry, Volume 9, page 326-57, 2004
JF Cryan and C Mombereau

遺伝子組み換えマウスを作る技術は現代医学において飛躍的な前進を可能にした技術で、精神医学を含めるあらゆる分野に影響を及ぼした本レビューは、マウスにおける鬱病に関連した新規標的を検討することを目的とした既存のモデル(強制水泳試験、尾懸垂試験、嗅球摘除、学習性無力感、慢性軽度ストレス、薬物離脱により誘発された無快感症等)や研究戦略に焦点を置いた。このようなモデルの有用性を検証するために鍵となるとされる問いに焦点を置いた。さらに、遺伝子組み換えマウスにおいて、臨床的鬱病に関係がある変化が起きるかに関するヒントを得られる可能性のある、他の研究手段についても概観する。 続きはこちらから(英文の原文) »
 

 

動物を用いた実験が人間にとって有用である科学的根拠はどこか

British Medical Journal, Volume 328, page 514, February 2004
Pandora Pound, Shah Ebrahim, Michael B Bracken, Ian Roberts

多くのヒトの治療法となりうる取り組みに関する動物を用いた研究は、適切に実施されておらず、システマティック・レビュー(系統的な文献検討)により評価されていないので、無駄になっていると言える。

臨床医や一般社会は、動物実験がヒトの疾患の治療に貢献していることを公理のように信じているが、この見方を支持する科学的根拠は少ない。基礎的な動物実験の重要性や臨床への適用を評価するための方法は少なく、そのため動物実験の臨床(科学ではなく)への貢献は未だに定かではない。正当化のためには、事例証拠(逸話)や根拠のない主張が使われることが多い。例えば、動物実験の必要性は「明白」である、「動物実験は長年の利用でその有用性が証明された価値のある研究方法である」等の発言が使われている。このような発言は、このように論争の的になっているような研究方法に対しては不十分な科学的根拠であると言える。既存の研究と今後の研究に対するシステマティック・レビューの必要性を論じる。 続きはこちらから(英文の原文»

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